日本で生活していると独特の商習慣を知る場面が少なくありません。例えば、不動産の賃貸契約を結ぶ際に求められる「礼金」がそのひとつ。礼金は賃貸する物件の契約条件次第で求められるものであり、その支払いの必要の有無は家主によって異なります。借りる側としては物件探しの段階で理解しておくべき商習慣です。
礼金とは?
礼金(れいきん)とは、家や部屋を借りる際に謝礼という名目で家主に支払う料金です。賃貸契約を結ぶ際、貸借人が貸主に対して一度だけ支払うものとなっています。一般的に、賃貸の契約時に敷金(Deposit保証金)と合わせての支払いが求められますが、礼金は謝礼なので敷金と違い返金されることはありません。礼金の額は法律で定められてはおらず、家主が独自に設定するものとなっており、礼金の相場は家賃の1~2カ月相当の額が一般的です。また、家主によっては礼金を設定していない場合もあります。
なぜ礼金が必要?その起源は?
謝礼名目の礼金を提示されて支払うことに、すんなりと納得しがたい人がいるかもしれません。実際、礼金はもともと東京エリアのみの商習慣であり、日本全国で共通ではありませんでした。例えば、大阪では契約時に支払う「保証金」という「敷金」のようなものはありましたが、少なくとも20年前には礼金はありませんでした。礼金という商習慣を理解するには、東京が都市として発展していった歴史を少し知るとよいかもしれません。
東京が江戸と呼ばれていた時代(17~19世紀)、遠方地域から移り住む人の流入により人口は爆発的に増加していきました。その時代、庶民は長屋という集合住宅に部屋を借りるのが通例で、長屋を一単位としてコミュニティが形成される行政的なシステムになっていました。長屋の持ち主はコミュニティの管理・維持のために世話役「大家」を雇い、大家は賃貸人の面倒を見る責務を担いました。時に長屋の住人がトラブルに巻き込まれれば、大家はその解決に奔走しなければならず、その折に、謝礼として賃貸人から金銭を貰うことがありました。つまり、大家に対して賃貸人が謝礼を支払ったことが礼金の起こりです。その後、長屋コミュニティというシステムは消えましたが、家主がみずから大家の役割を担うようになり、家主=大家に礼金を支払うという商習慣に発展しました。さらに、戦争や関東大震災などの影響で東京・周辺地域の住宅不足が慢性的になったことから、住める場所を確保できたお礼として、礼金を支払う習慣が根付いたといわれています。
礼金 vs Key Money
礼金は“住む場所の確保”という意味合いでは権利金であり、英語ではKey Moneyと訳されます。ただし、厳密には違いがあり、それは、礼金は謝礼金なので返金されることはないという点です。Key Money は、鍵を確保するための保証金(Security deposit)という解釈で返金されると思われがちですが、日本でのKey Money=礼金は、返金されないと理解しておく必要があります。
礼金不要の賃貸物件 vs 要礼金の賃貸物件
近年では家主が礼金を要求しない賃貸物件は増加の傾向にあり、礼金不要の探すことは難しくありません。賃貸時の初期費用を抑えたいという場合は、礼金不要の物件を探すというのもよいでしょう。しかし、入居希望者が多い賃貸物件は、設備が整っている・新しい・立地が良いといった好条件にあるため、礼金が設定されることが多いといえます。また、人気の物件でありながら礼金が不要という場合、家賃が高いというケースがあることも覚えておきたいところです。
物件探しの時に気をつけること
礼金の有無は入居者募集時の要件で提示されているので、物件探しをする際に礼金が必要か否かを確認しておく必要があります。賃貸契約を結ぶ段階で礼金の支払いを拒絶すると、契約に至れない可能性があります。特に東京エリアでは礼金の支払いが契約上の慣例になっているため、事前に説明がなかったということであっても交渉は難しいでしょう。賃貸物件を探す際は、建物の状態だけでなく金銭面での条件も確認して、要らぬトラブルを避けたいものですね。